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前ページトリスタニア連続殺人事件 ルイズ「私があなたを召喚したルイズです。『ミス・ヴァリエール』と呼んでください。 ここが事件のあったトリスタニアです。どういう風に捜査を始めますか?」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「私の何を調べますか?」 →おっぱい ルイズ「やめてください」 →ひとにきけ ルイズ「では、この辺りの人に聞き込みをしてみます。 ヤス! わた……『ルイズちゃんは最高!』だそうです」 ヤス「他に情報は無かったのか?」 ルイズ「ありませんでした」 ヤス「自演乙」 →なにか みせろ ルイズ「何を見せますか?」 →ぱんつ ルイズ「いつも見せてあげてるじゃないですか、エッチ」 ヤス「それもそうだな、グヘヘ」 →たいほ しろ ルイズ「あなたが逮捕されるべきでしょう」 ヤス「何で俺が逮捕されなきゃいけないんだ」 ルイズ「毎晩私にあんな事をしているくせに?」 ヤス「合意の上だろう」 ルイズ「駄目だこいつ。早く何とかしないと」 →よべ ルイズ「誰を呼びますか?」 →ミス・ロングビル ルイズ「なぜミス・ロングビルを呼ぶのですか?」 ヤス「もちろん太腿をすりすりするためだ」 ルイズ「ファック・ユー。ぶち殺すぞ、ゴミめ」 →ばしょいどう ルイズ「どこに行きますか?」 →ラブホテル ルイズ「まだ昼間ですよ」 →まほうがくいん ルイズ「では、魔法学院に向かいます」 ルイズ「魔法学院会議室です」 →ひと さがせ ルイズ「会議室には誰もいないようです」 ヤス「それじゃ会議室プレイをしようか」 ルイズ「君は本当に馬鹿だな」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「どうしますか?」 →なにか とれ ルイズ「何を取りますか?」 →ふく ルイズ「私が脱いだら、このSSが削除されますよ」 ヤス「それは困る」 ルイズ「期待してた奴ぷぎゃー」 →すいり しろ ルイズ「何を推理すればいいのかわかりません」 ヤス「事件についてだよ! 事件!」 ルイズ「事件って何ですか?」 ヤス「連続殺人事件だろ?」 ルイズ「そんなものは起きていませんが」 ヤス「え?」 ルイズ「それよりももっと重大な事件が起きているのです」 ヤス「何だそれは」 ルイズ「子供ができました。私とあなたの子です。責任取ってください」 ヤス「な、何だってー。そんな馬鹿な、避妊はしたはず」 ルイズ「タス、まだわからないのですか。ゴムに穴を開けておいたのです。見事な危険日中出しでした」 ヤス「オーノー。ていうか、殺人事件じゃなかったのか」 ルイズ「いいですか。よく考えてください。恐ろしい連続殺人事件よりも、新しい命が誕生する事。その方がとても素晴らしい事件じゃないですか」 ヤス「でもタイトルには『連続殺人事件』って」 ルイズ「すまん、ありゃ嘘だった」 ヤス「な、何だってー」 ルイズ「あっ、陣痛が!」 ヤス「えっ、もう!?」 ルイズ「ひぎいっ、陣痛イイ!」 ヤス「何てこった、事件は現場じゃなく会議室で起きてるんだ!!」 ルイズ「早くー、救急馬車ー」 →でんわ かけろ ルイズ「お前がかけろよ」 ヤス「サーセン」 ルイズ「ひっひっふー、ひっひっふー……あー、頭出てきたー」 才人『はい、平賀です』 ヤス「あっ、間違えました」 ルイズ「馬鹿野郎」 こうしてルイズは元気な双子を産みました。 ヤスとルイズはメディアに大きく取り上げられ、2人はめでたく結婚しましたとさ。 めでたしめでたし。 トリスタニア連続出産事件 終わり ルイズ「な……、何ですか、このゲーム……」 ロングビル「もちろん、この魔法学院を舞台にしたゲームですよ?」 ルイズ「いや、これはいくら何でも……」 キュルケ「ま、そういう反応が自然よね……」 ロングビル「何よー。退屈してる生徒を楽しませようと思ったのに。結構苦労したのよ、これ」 キュルケ(あなたは口出すだけで、作ったのは私でしょうが……) ルイズ「でもこれは酷いですよ……。何か出産しちゃってるし。『陣痛イイ!!』とか訳がわかりませんよー」 ロングビル「陣痛はイイッ!! のよ。私は知ってるわ」 キュルケ(そりゃエロ小説の中の知識でしょうが……) ロングビル「はあ……、こんな事がまかり通るのもこの学院が暇なせいよね……」 キュルケ(暇なのはあんただけよ……) ルイズ「やっぱりきちんとした教師がいないと……」 キュルケ「そうよねー。この学院にも早く教師が来るといいわねー」 ロングビル「まったくオールド・オスマンも何をしてるやら……」 キュルケ「あら? そういえばオールド・オスマンは?」 ルイズ「オールド・オスマンなら今日は早く帰ったみたいですよ。今日は大事な日なんだそうです」 キュルケ「大事な日?」 ロングビル「ああ……、そうか。以前オールド・オスマンが言ってたわね……」 ルイズ「知ってるんですか? 教えてくださいよー」 ロングビル「駄目。これはオールド・オスマンの大事な思い出に関わる事だから……」 ?「……お世話になりました」 守衛に挨拶をし、牢獄を後にする。 僕は今日釈放となった。 そして懐かしい人が目の前にいる。 オスマン「『ラ・ロシェール港の見えるこの場所で会おう』。そういう約束じゃったね。出所おめでとう」 ?「……オールド……オスマン……」 オスマン「ふふ……、久しぶりに会ったんじゃ。昔のように呼んでくれないか。なあ……、そうじゃろう、ヤス?」 ヤス「……もう一度……、呼ばせてもらえるのですか? ……ボス……」 オスマン「もちろんじゃとも」 ヤス「ボス……、僕は……ううっ……! ボス……!」 オスマン「おいおいヤス、何を泣き出してるんじゃ? ……さあ、行こう。ミス・アニエスも君を待っているぞ」 ヤス「……はい! ボス!!」 トリスタニア連続殺人事件 原作 ヤマグチノボル 開発 ちゅんそふと 製作 えにっく ヤス「ボスもせっかちですね。そんな性格だと女の子に嫌われますよ」 ヤス「かなり古い建物です。何でも昔外人が建てた物を買い取って改築したとか……」 ヤス「ボス、ここはラグドリアン湖じゃありませんよ」 ヤス「僕に脱げと言うのですか? ボスはまさか……」 ヤス「わ、わかりました……」 ヤス「ボス、見事な捜査でした。僕がアニエスに召喚された文江の兄です。妹達を死に追い込んだ、あの2人を許せなかったのです」 アニエス「その後は私が話します」 ヤス「アニエス! お前は逃げろって!」 アニエス「ヤスは黙ってて!」 ヤス「これで全ておしまいです。でも皮肉なもんですね、殺してからコルベールが後悔してた事がわかるなんて……」 ヤス「僕があなたの使い魔の真野康彦です。『ヤス』と呼んでください」 オスマン「……おお、そうじゃ、ヤス」 ヤス「何ですか、ボス?」 オスマン「君の勤め先を用意しておいたよ。メイジに魔法を教える学院なんじゃがね……」 前ページトリスタニア連続殺人事件
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前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 ルイズはアンジェリカを抱きしめたまま眠りについていた。 「アンジェ…泣いているの?」 朝日が昇るほんの少し前に目を覚ましたルイズはアンジェリカが寝ながら涙を流しているのに気付く。ルイズはアンジェリカを自身の胸元にギュッと抱きしめる。 「ごめんねアンジェ。わたし、こんなことしか出来ないの」 ルイズはアンジェリカが目を覚ますまでずっと抱きしめ続けるのだった。 アンジェリカが目を覚まし以前のように水汲み場へ行ってもそこにシエスタの姿はない。 「ルイズさん。シエスタちゃんがいませんよ?」 きょろきょろと辺りを見回しながらルイズに尋ねる。 「そ、そうね。どうかしたのかしら?」 分かっていた事だった。シエスタがアンジェリカを避けていることなど……。 「時間が惜しいから早く洗濯済ますわよ」 「はいルイズさん」 あのモット伯の屋敷で何かがあった。シエスタがアンジェリカを避ける決定的な何かが……。 「ねぇアンジェ…」 「どうかしましたかルイズさん」 アンジェリカがルイズの瞳を覗き込む。 「やっぱりなんでもないわ」 「?」 やっぱり怖くて聞けない……。 しばらくの間二人は何もしゃべらずに黙々と洗濯を続けるのであった。 ルイズは洗濯が終わり厨房へ向かおうとするアンジェリカを引き止める。 「今日から食堂で一緒に食べましょ」 「え?」 足を止めルイズの方へ振り返ったアンジェリカ。 「だから、一緒にご飯食べるって言ってるの!」 顔を赤くしてアンジェリカにぶっきら棒に言い渡した。アンジェリカはそんなルイズをみて笑顔を浮かべるのだった。 二人そろってテーブルに着いたが、ルイズは食事を取る前にある人物を指差しアンジェリカに問いかけた。 「あいつのこと覚えてる?」 そういってモンモランシーとギーシュを指差す。 「モンモランシーさんと…あと一人は何方ですか?」 首をかしげながら答えるアンジェリカ。 「じゃあ、あいつは?」 次いでキュルケとタバサを指差した。 アンジェリカはしばらくその方向を眺めながらも……力なく首を左右に振った。ルイズはそれをみて考え込む。 『アンジェはこのことを自覚しているのかしら…』 「ルイズさん…」 「何アンジェ?」 アンジェリカの呼び声にハッとして答える。アンジェリカはルイズの瞳をじっと見つめながら口を開いた。 「あの、私忘れてるんですか…大切な人を忘れてたりしていませんか?」 そういうアンジェリカの顔には不安がありありとでていた。 「大丈夫よ。ちょっと聞いてみただけよ。だから気にしないで」 少しでもその不安を和らげようと気休めの言葉をかける。 本当はもっと色々聞きたいのだがそれをしてしまえばアンジェリカを傷つけてしまうのではないか。そんな不安からこれ以上聞くことも出来なかった。 「さあ早く朝食を済ませましょう」 気が滅入ってしまう……この話題を打ち切り目の前の朝食に取り掛かるのであった。 Zero ed una bambola ゼロと人形 何事もなく時間は過ぎていく。そして日が暮れ始めた頃、アンジェリカとルイズに向かってキュルケが声をかけた。 「ルイズ! まちなさいよ!」 キュルケの大きな声にピクッと反応するルイズ。それを最初は無視しようかとも思ったがさすがにそれは出来ない。しぶしぶその足を止める。 「何か用?」 「何か用じゃないわよ。アンジェちゃんが起きたんでしょ?何であたしに言ってくれないのよ」 「別にあんたには関係ないでしょ」 ぶっきら棒に答えるルイズ。だがキュルケはそんなルイズを無視してアンジェリカに話しかけた。 「はぁい。アンジェちゃん久しぶり~。元気? あたしのこと覚えてるかな?」 「ちょっと、わたしを無視してるんじゃないわよ!」 騒がしい二人をよそにアンジェリカは静かに答える。 「ごめんなさい。覚えていないです。お名前教えていただけますか?」 「は?」 アンジェリカの回答に声が出ないキュルケ。思わずルイズに詰め寄る。 「ヴァリエール笑えない冗談を吹き込むのはやめて貰えないかしら?」 「冗談じゃないのよ…」 ルイズは少し怒ったようなキュルケに向かってぼそりと呟くように答えた。 「あなた何言ってるの?」 ルイズは自分をからかっているのではないだろうか。キュルケはそう思いながら呆れたように言った。 「そうよ、冗談だったらいいのに…。アンジェリカが記憶を失うなんてわたしも信じたくないわ」 ルイズは俯きブツブツと呟く。 「アンジェだって自分の症状のこと自覚しているし……」 その声はだんだんと小さくなり次第に聞き取りにくくなっていく。 「ちょっとルイズ何言ってるの?」 ルイズは俯いたまま小さく声を上げるがよく聞き取れない。 「ああもう! ここじゃ何だから外にでも行って散歩しながら詳しく聞かせてもらうわよ」 「わかったわ」 ルイズも気分転換になるかもしれないと同意する。 「アンジェちゃんもそれでいい?」 キュルケは笑顔でアンジェリカに話しかけた。 「ルイズさんが行くのであれば私も行きます」 それにアンジェリカも笑みで返す。 「それとね、あたしの名前はキュルケよ。もう忘れたら嫌よ?」 優しい声で名前を再び教え、アンジェリカにウインクをする。 「はい、キュルケちゃん」 Episodio 21 Insegni un nome 名前を教えて 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
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さて、現在の刻限は朝である。 つまり、朝食の後には、授業を受けなければならないのだ。 気分を持ち直せたのはいいものの、この使い魔を伴ってそうすることを考えると、また気が滅入ってくる。 「着替え」 ルイズは気だるげに命じた。 だが、角女はルイズを見つめたまま――いや、 ルイズの手前の何もない中空をぼんやりと眺めやっていて、ぴくりとも動かない。 「はああぁ」 特大の溜息が漏れる……角女への怒りよりも、自身への呆れが勝ったのだ。 自分はまだ寝ぼけているのだろうか。 角女が小間使いの真似などできるはずもないことなど、ちょっと考えればわかるだろうに。 「『馬鹿なことを言ったわ』『こいつが言いつけに従ってテキパキ働けるわけないのよ』 『昨日は、椅子に座るだけでもあんなにとろとろしていたんだから』」 「いちいちうるさいわね」 軽い自己嫌悪の最中に、角女がわざわざ声に出してそれを伝えてくれたので、ルイズはムッと口を尖らした。 仕方なく――と言ってもこれまで毎日やってきたことなのだが、自分で着替えることにする。 制服は皺くちゃになってしまったので、クローゼットから予備のものを取り出した。 「ほら、あんたも一緒に来るのよ」 身繕いを終えたルイズは、角女をせっついて部屋を出る。 と、間の悪いことに、それとほぼタイミングを同じくして隣の部屋のドアが開いた。 中から、燃えるような赤毛の、背の高い女生徒が姿を現す。 ルイズの宿敵、犬猿の仲であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだった。 「あら。おはよう、ルイズ」 キュルケはこちらを見て、唇の端を吊り上げた。 それからルイズの背後に幽鬼のように佇んでいる角女を指差して、言う。 「あなたの使い魔って、それ?」 まったく馬鹿にしきった口調である。 第一、あの儀式の場でルイズを遠巻きに見ていた同級生たちの中にはキュルケもいたはずなのなのだから、 皮肉もいいところだ。 「……そのとおりよ」 仏頂面で応じて、ルイズはさっさと食堂に向かうことに決めた。 何か言い返してやってもいいのだが、 角女がいつルイズの心を読み上げ始めるかわからないのだ、気が気でない。 「あはははっ、すごいじゃない、ルイズ! ゼロの汚名返上ってところかしら?」 キュルケはそんなルイズの心のうちも知らず、弾けるような笑い声を上げる。 ルイズはますます眉間に皺を寄せた。 嫌味たっぷりに言われても、少しも褒められた気がしない。話を切り上げるべく、口を開く。 「あんたの話には付き合ってられないわ、ツェルプストー」 「そう言わないでよ。ねえ、フレイム」 キュルケがちらりと後ろを振り向くと、 その背後、ドアが開け放たれたままのキュルケの部屋から、のそりと火トカゲが這い出てきた。 「これって、サラマンダー……?」 「そうよー。あたしも昨日、使い魔を召喚したの。見て? この尻尾、素敵でしょう」 ルイズの呟きに、誇らしげに微笑むキュルケ。 ルイズは苦い顔になった。要するに、己の使い魔を見せびらかしたかったわけか。 ここまで大きな炎の尾を持つものはそうそういまい、おそらく火竜山脈のサラマンダーだろう。 メイジの実力をはかるには、まず使い魔を見ろ、という。 キュルケのサラマンダーは、その点、メイジにとって申し分ないと言えるだろう。 それどころか昨日召喚された使い魔たちをランク付けしたなら、五本の指のうちに入るに違いなかった。 昨晩、ルイズが絶望に暮れていた間、キュルケはルイズへの優越感にでも浸っていたのだろうか? そう考えると、胃の腑からむかむかとしたものが込み上げてくる。 「角女!」 ルイズは角女の腕を引っ掴んだ。 背丈はルイズよりも高いものの、その動作に抗いもしない角女は簡単に引きずられ、 よろめきながら大人しくルイズの前に出る。 「……? 何?」 突然のルイズの行動に、キュルケは目を瞬かせた。 「そそそ、それじゃあ、キュルケ」 笑おうとしたら、頬が引きつった。 「わ、私の、使い魔も、紹介してあげるわ。つっ、角女っていうのよ」 努めて穏やかな声を出しているつもりなのだが、どうしてもつっかえてしまう。 角女の痩せた背中を押して、キュルケの前に突き出す。 深い考えがあるのではなかった。 気まぐれに人の心を読むだけの角女が、己の思惑に沿ってくれるかもわからない。 ただ、無性に腹立たしかっただけだ。 キュルケも、自身の醜い心を暴かれたらいい。 そして少しはルイズが感じた苛立たしさや惨めさを思い知ればいいのだ―― そんな八つ当たりめいた、単純な思いからの行動だった。 「ふうん、角女ねえ」 困惑してはいるようだが、キュルケはきちんと目の前の角女と目を合わせた。 「……『少し変わってるけど、ちゃんと召喚できたんじゃない』」 「えっ?」 「『よかったわね、ルイズ』」 てっきり自分へのひどいけなし文句が飛び出してくるとばかり思っていたルイズは、 ぽかんとして、角女の後ろからキュルケを窺い見た。 キュルケは何が起こったのかわからないようで、目を丸くしている。 次いで、角女を見上げる。角女はじっとキュルケを見つめていた。 「『でも、落ち込んでるみたいね』『心配だわ』『いつもみたいに、発破をかけてあげなくちゃあ』」 「…………」 「…………」 ルイズとキュルケは、揃って黙り込んだ。 「キュ、キュルケ、あんた……」 沈黙を破ったのはルイズの方からであった。 角女が口にするのは、真実他人の心のみである。 そのことを昨日散々思い知らされたルイズにも、今の角女の言葉が意味するところをすぐには理解できなかった。 「……まさか、私を、励ましに来たの?」 普段の自分たちの関係からは、とても信じられない。 だが次の瞬間、ルイズはもっと信じられないものを目にした。 ――あのキュルケが、耳まで真っ赤になったのだ。 「なっ、ばっ、ちっ、ちちちち違うわよっ! わ、私が、ヴァリエールの女を? そんなわけないじゃない!」 勢い込んでまくし立てる。まるでルイズとキャラが入れ替わったようである。 キュルケも、言ってからそれを自覚したのだろう、ハッとなった後にわざとらしい咳払いをした。 「コホン! ……と、とにかく、変な勘違いしないでちょうだい」 「そ、そう。勘違い。そうよね、おかしいと思ったわ」 無理矢理感はあるが、いつものように澄ましてみせるキュルケに、ルイズも調子を合わせて頷く。 「『誤魔化さないと』『落ち着くのよ、キュルケ』 『今日だって本当は、昨日ルイズの様子がおかしかったから部屋から出てくるのを待ってたなんて』 『そんなことまでバレたら恥ずかしくて生きていけないわ』」 「…………」 「…………」 お互いの間に、再び幾秒かの沈黙が横たわった。 ややあって、キュルケは無言のまま踵を返す。 「いやあーっ!」 そして頭を抱えるように叫んで、廊下を駆け出して行った。 遅れて、その後をフレイムがちょこちょことした足取りで追いかけていく。 その尻尾が完全に廊下の角に消えてしまっても、ルイズはしばらく呆然としていた。 「ね、ねえ……」 やがて、ルイズが角女の服の裾を引っ張ると、角女はゆっくりとルイズに顔を向ける。 「角女。今の、本当なの?」 「『まさかね』『キュルケに限って』」 「わっ、私はね、あんたに聞いてるのよ! 答えられないの?」 無駄だとわかってはいても、つい語気を荒げてしまう。 「『でも、角女は心を読むだけしかしないわ』『こんなふうに』『嘘はつかない』」 「そう、だけど。でもキュルケが私を……し、し、しんぱいだなんて、そんなことあるかしら」 ルイズはさらに言葉を重ねようとして、しかしかぶりを振った。 角女相手だと、会話ではなく単なる自問自答になってしまう。 ルイズは腕組をして、一人考えた。 言われてみたら、キュルケの態度は他の皆とは少し違っている……ような、そうでないような。 少なくとも、魔法の失敗に対して罵倒に近いような野次を飛ばすことはしないわね。 でも、この前は、爆発に巻き込まれてキーキー怒ってたし、これだからゼロのルイズはって言われたし。 でもでも、どこかのかぜっぴきがする侮辱に比べたら、かわいいもの、とも言えなくはない、わよね? ルイズの思考はぐるぐるしだした。 しかも角女がそれを読み上げるものだから、さらに混乱に拍車がかかった。 「でもでもでも、キュルケの言葉に傷ついたことだって、一度や二度じゃないのよね」 知らず、ルイズは考えたことをそのまま声に出して言い始めていた。 「『まったく、紛らわしいんだから』『どうせなら、もっとわかりやすく励ましなさいよ』」 「そうよ! ほんと、そのとおりよね! そしたら、私だって、私だって――」 「……ミス・ヴァリエール?」 「きゃああああっ!?」 声をかけられて、ルイズは大げさな悲鳴を上げた。 振り返ると、学院のメイドが立っている。 「あっ、も、申し訳ございません! 驚かせてしまいましたでしょうか……」 メイドはルイズの悲鳴に一瞬固まったが、すぐに慌てふためいて頭を下げた。 「お、驚いてないわよ。ええ、全っ然驚いてないし、ツェルプストーのことなんか考えてないわ」 ルイズは平静を装ったが、 「『聞かれた?』『聞かれたかしら、今の?』『いやー!』『と言うか、私だってって何よ私!?』」 角女に台無しにされた。 「ううう、うるさいわよっ、角女!」 顔を赤くして使い魔を叱り付けるルイズ。 「あ、あの……ミス・ヴァリエール」 おずおずと口を挟んでくるメイドは、よく見れば、見覚えのある顔をしている。 ああ、いつも洗濯を頼んでいるメイドだ。名前は何といったか。 そして、ルイズはここが女子寮の廊下で、自室の真ん前であることを思い出した。 「洗濯物ね?」 横によけて、道をあける。 勝手に持って行っていいと言ってあるのだが、 今はルイズがドアを塞いでしまっているから、立ち往生してしまったのだろう。 「いえ、それもあるのですが……」 「何?」 「お食事はもうお済みになったのですか?」 「!!」 忘れていた。 一体どのくらいの時間、ここで呆けていたのだろうか。 今から走っていけば、まだ間に合うかもしれない。それと、鈍くさい角女を置いていけば。 少し考えて、ルイズはそうすることに決めた。どのみち、食堂には角女の分の食事はないのだ。 「あなた、角女――私の使い魔の食事を頼める? 多分、人間と同じものを食べると思うけど」 ルイズが言うと、メイドは珍しそうに角女をチラとだけ見て、それからルイズに向き直った。 「はい。賄い食でよければ、お出しできますわ」 「それでいいわ。私、急ぐから、代わりに厨房まで連れて行って」 「かしこまりました」 メイドの返事に満足して走り出そうとしたルイズは、ふと、その寸前で足を止めた。 「あなた……名前は何だったかしら?」 それは、貴族の例に漏れず平民を見下している常のルイズならば、決して口にすることのない質問だった。 一介のメイドの名など気にしたこともないし、現にこれまで尋ねたこともない。 「えっ、私ですか?」 案の定、シエスタもびっくりした顔をして、聞き返した。 「他に誰がいるのよ」 「は、はい、申し訳ございません――私は、シエスタと申します」 「シエスタね。そいつ、むちゃくちゃ扱いにくいから、よろしくね。先住魔法を使うけど、無害よ。たぶん」 「たぶん、ですか……」 やや青ざめた顔で、角女を見上げるシエスタ。 ルイズは今度こそ駆け出した。 その際に、角女がシエスタに何か告げているのがちらりと視界に映ったが、 気立てはよさそうだし、まあ、読まれても大丈夫だろう。 ギリギリで朝食にありつけたルイズが、無事食事を済ませ、アルヴィーズの食堂を後にしようとすると、 入り口のところでキュルケが待ち構えていた。 「ルイズ」 「……ど、どうしたのよ、キュルケ」 どことなく気まずい。視線が合わせられずに、ルイズは目を泳がせる。 一方で、キュルケはまるでけろりとしている。 あれの後で、よく何事もなかったかのように声をかけられるものだ。ルイズは妙なところで感心した。 「さっきは、ちょっとだけ、取り乱しちゃったわね」 「ふーん。ゲルマニアでは、悲鳴を上げて遁走することをちょっとだけって表現するのね」 「…………」 キュルケは無言で眉を吊り上げた。 ルイズは何だか、面白くなる。あのキュルケを、自分が翻弄しているのだ。 キュルケがいつも突っかかってくるのは、もしかしたらこういう動機があるのかもしれない。 「やっぱり、私の口からちゃんと言っておこうと思ったのよ」 キュルケはルイズの茶々を無視して話を推し進めることにしたらしい。 「言っておくって、何をよ?」 「つまり、……さっきの、アレよ」 「アレじゃわからないでしょ。はっきり言いなさいよ」 ついいつもの癖で、口調が喧嘩腰になってしまう。 ふう、とキュルケは溜息をついた。 「じゃあはっきり言うわ。――召喚おめでとう、ルイズ。よかったわね」 「え」 平然としているように見せて、相当に恥ずかしかったのだろう、 「それだけよ。じゃあお先に失礼」 瞠目しているルイズを置いて、キュルケはさっさと食堂を出て行こうとする。 昨日までのルイズだったら、キュルケの言葉は「ゼロのルイズ」への侮辱に等しい同情なのだと、 そういうふうに受け取っていたかもしれない。 ルイズの心を読み上げる角女が口にした言葉は、刺々しい、ひどい文句ばかりだった。 己の心があんな醜いものに満ち満ちていることに、ショックを受けた。 それと比べて、どうだろう。 先ほど角女が告げたキュルケの心のうちは。 羨ましい。そして悔しい。自分が持っていないものを、すでに得ているキュルケが。 でも、だったら、正せばいいのではないか? 鏡を見て、身だしなみを整えるのと一緒だ。 決意する。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、今日から変わろう。 きっと、己に恥じない生き方ができる者こそを、真に貴族と呼ぶのだろうから。 「あ、ありがとう……」 その背中に投げかけられたルイズの声は、そう大きいものではなかったのだが、 キュルケの耳にはしっかり届いたらしく、キュルケは心底意外そうに振り返った。 「いやに素直じゃない。嵐でも来るんじゃないかしら」 「ふ、ふん。嵐が来るんだとしたら、あんたのせいでしょう、ツェルプストー」 ルイズはむきになって言い返した。 「あんたのうろたえようったら、なかったわ。あの姿、末代まで語りついであげる」 「何ですって」 「何よ」 二人はもう、いつもどおりだった。 ただ違うのは、ルイズは必要以上につんけんしておらず、 キュルケはどことなく楽しそうにしているのを隠しもしていないというところだ。
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たんたんたたたん、たたたん、たたたん、 「ようこそ、ハルケギニア――魔法と剣が交わる、ファンタジーの世界へ」 たんたんたたたん、たたたん、たたたん、 「この世界の法則は、私たちの知るそれとは余りに異なっています」 たーんたたーん、たんたんたんたたたんたんたん、 「彼女らからすれば、私たちの世界こそがまさにファンタジーなのでしょう」 たんたんたんたんたたたんたん、 「果たして、どちらの世界が正しいのか――決して、そんな疑問を持ってはいけません」 たんたんたんたたたんたんたん、 「答えの無い問い。その果てに行き着く先は――現実でも幻想でもない、 『奇妙な世界』に他ならないからです」 たんたんたんたんたんたたたんたんたん、 「ゲートをくぐった先。そこが、 恋と冒険に満ち溢れた素晴らしい世界である――そんな保障は、どこにもありません」 たんたんたたたん、たたたん、たたたん、 「おや。今も一人――可愛い可愛い少女が、『奇妙な世界』へと、迷い込んでしまったようです」 たんたんたたたん、たたたん、たたたん、 「ほら。あなたのことですよ」 だん。たんたんた、たららん。 ――ハルケギニアにも奇妙な物語―― 「なんなのよ、もう」 ルイズは自室の寝台の上、枕に顔を沈めていた。 今にも泣き出してしまいそうな、弱々しい声で呟く。 「使い魔が、居なくなっちゃうなんて」 使い魔召喚の儀式。 一生のパートナーとなる使い魔を選ぶそれは、二年次への進級試験というだけでない、 メイジにとって極めて重大な意味を持つものである。 それまで魔法に成功したことの無いルイズは、この儀式のために、それはもう頑張った。 とにかく頑張った。 その努力っぷりたるや、天敵であるツェルプストー家の同級生が 思わず応援してしまうほどのものであったという。 文字通り寝食を惜しみ、心身を削って、 ルイズは死に物狂いでこの儀式のために準備をしていた。 その成果、と言うべきなのか。 結論を言えば、使い魔召喚の儀式は成功した。 その瞬間、準備を手伝った級友たちの歓声と砂埃に包まれながら、ルイズは胸を高鳴らせる。 やった。ついにやったのだ。もう誰にも『ゼロ』なんて呼ばせない。 だって自分は、魔法を――そう! 魔法を成功させたのだから! どんな使い魔なのだろう。何せこの自分の使い魔なのだ、強く、美しく、気高くて、 そう、グリフォンとか、マンティコアとか、ケルベロスとか、ユニコーンとか、 ももも、もしかしてドラゴン――韻竜とか! いや、いい。どんな使い魔だろうといい。自分の召喚に応じてくれたのだ、 たとえそれがオケラだって、ミミズだって、モグラだって――流石にちょっと嫌だけど、 でもどんな使い魔でも、ぜったいぜったい大事にしよう。 晴れゆく砂埃の向こうに姿を現したのは、黒い礼服に身を包み、 奇妙な黒い眼鏡を着けた中年男性だった。 この刹那、確かにルイズの時は止まった。 そしてあろうことか、その中年男性は何やらわけのわからないことを勝手に喋り倒した挙句、 居なくなってしまったのである。 そこに居合わせた誰もが注目していたにも関わらず、気がついたら『居なくなっていた』。 去ったのでも、消えたのでもなく、ただ『居なくなった』としか形容出来ない。 それは、まさしく『奇妙な』現象だった。 「…………」 ルイズは現状を確認し、ますますその鬱っぷりを加速させていた。 そう。彼女は『サモン・サーヴァント』にこそ成功していたが、 使い魔召喚儀式の重要なもう一段階を――『コントラクト・サーヴァント』を達成出来ずに居る。 使い魔が居なけりゃ、使い魔にキスなんぞ出来る筈も無い。 当たり前の話だ。 ……そんな前代未聞の事例を前に、学院は一つの選択を迫られる。 ルイズを進級させるか。 それとも――ダブらせるかだ。 ダブり。 そのおぞましい単語を思い浮かべただけで、ルイズは首を絞められるような気分になる。 もしも、仮定、仮の話として、万が一ダブってしまったら。 ……両親や姉達は、どういった反応をするだろう。 元々、魔法を使えない落ちこぼれだった自分。 だ、ダブりなんかしたら。 ……考えることすら脳が拒否した。 「…………」 空腹と乾きを自覚する。わずかな水以外、丸一日何も口にしていない。 ルイズの処遇を決めるのにも、あと数日は必要だろう。 それまで、ここでひたすらじっとしているわけにもいかない。 ……厨房に行って、何か貰ってこようか。 ルイズは重い体を引きずり、部屋を出た。 「あ」 「ん?」 部屋を出たところで、ばったりキュルケと対面してしまった。 ルイズは、自分の顔が醜く歪むのを自覚する。 ――こんな時に、ツェルプストーの娘と顔をあわせてしまうなんて。 何を言われるか、予想はつく。 「ルイズ! やっと出てきたのね。ちょうど今、呼びに行こうと思ってたのよ」 「……何よ」 妙に明るい様子のキュルケ。それはそうだろう、とルイズは思う。 天敵のヴァリエールがこんな無様を晒しているのだ。 ツェルプストーの娘にとって、こんな嬉しいこともないだろう。 大体、大して親しくもない自分を呼び出してどうするつもりだったのか。 サラマンダーでも見せ付けるつもりか。 「まったく、ずっと部屋に篭って何をしてたの? 聞いたわよ、あの話」 ほら、やっぱり。 やたらと親しげに話しかけてくるキュルケに、ルイズは顔をしかめる。 どうせ、自分の使い魔を自慢して、バカにしてくるに違いな―― 「あんた、『くぎみやりえ』なんですってね!」 「……は?」 ルイズの目が点になった。 なにそれ。 「まったくもー、それっぽいとは思ってたけど、まさか本当にそうだとはねー」 ルイズの肩をバシバシ叩くキュルケ。いてーよ。馴れ馴れしいんだよ。 「ほら、行くわよ。ギーシュたちが今、宴会の準備してるから」 「……え? 宴会?」 混乱するルイズ。 「なんで?」 「決まってるじゃない。あんたが、『くぎみやりえ』な記念よ」 「な、何それ?」 そうだ。なによそれ。その『くぎみやりえ』って何だ。 キュルケはニヤニヤしながら答える。 「またまた、惚けちゃって。ほら、とっとと行くわよ」 「ちょ、惚けてなんか……!」 「ほらほら、歩く歩く!」 キュルケに背中を押され、食堂の方に誘導される。 「だだ、だからその『くぎみやりえ』って何なのよ!」 「もー、バレバレなんだから惚けないの」 結局、『くぎみやりえ』とは何なのか。わからないまま食堂に着く。 扉を開けると、 「「「ルイズ、ばんざあああああああああああいい!」」」 歓声に包まれ、ルイズは目を丸くした。 タバサ、ギーシュ、モンモランシー、マルコリヌ……クラスメイトはもちろん全員、 他の顔も知らないような奴さえ集まっている。百人以上は居るようだ。 「やぁルイズ、まさか君が『くぎみやりえ』だったとはね!」 「……聞いてみれば明らか。今まで気づかなかった方が『奇妙』」 「とにかくこっち座れよ、ルイズ!」 「な……」 呆然とするルイズを数人があっという間に取り囲み、中心に座らせる。 食卓には、豪勢な食事や高価なワインなど。普段の食事よりも更に豪華なものが並んでいた。 「な、何よこれ一体! 何なの!」 ギーシュが薔薇を振り、ポージングしながら答える。 「何、って……。祝賀会に決まっているじゃないか」 「何の!?」 「君が『くぎみやりえ』だったことがわかったんだ。当たり前じゃないか!」 わけが、わから、ない。 「だからその、ああああもう、わけわかんない! 何なのよあんたら!」 一人錯乱するルイズ。 その声を聞いて、その場に居る全員がどよめく。 「おお、『くぎみやりえ』だ……」 「『くぎみやりえ』ね……」 「なんという『くぎみやりえ』……」 「これぞ『くぎみやりえ』、ツンデレの極地、ツンデレの行き着く終焉にして究極!」 「く、くぎゅうううううううううう!」 「くぎゅうううううううううううううう! もっと、もっと罵倒を!」 だから、本当に、わけが、わから、ない。 「だから――」 「さぁ、乾杯だ! 僕たちの友、ルイズと!」 ギーシュが杯を高く捧げる。ルイズもキュルケに杯を無理やり持たされてしまった。 「「「その『くぎみやりえ』に!」」」 他の者たちが続いて唱和。そして、 「「「かんぱあああああああああああああああああああいい!」」」 その後のことは、ルイズの記憶には残っていない。 窓から差し込む朝日で目を覚ますと、そこは自室の寝台の上だった。 「う……」 軽く二日酔い気味。頭が重い。飲みすぎたのか。昨日は―― 「っ!」 そこで昨日の出来事を思い出す。そうだ。結局あのわけのわからない宴会はなんだったんだ。 一体、 「『くぎみやりえ』ってなんなの?」 一人呟く。もちろん、返事は無い。 ……取り敢えず、部屋から出て誰かに問いただすべきよね。 身なりを整え、部屋を出る。 廊下を足早に歩き、誰か居ないかと周りを見回していると―― 「きゃっ!」 「あっ!」 前方への注意がそれてしまっていたのか。誰かにぶつかってしまった。 慌てて倒れた黒髪のメイドを抱き起こす。 「だ、大丈夫かしら? 悪いわね、ちょっと考え事をしてて」 「た、大変申し訳ありません! 私の方こそ不注意で――!」 恐縮していたメイドがルイズを見て、何かに気づいたような顔になった。 「失礼ですが、ミス・ヴァリエールでしょうか?」 「? そうだけど?」 「ちょうど今、部屋に伺おうと思っていたんです。 学院長がお呼びですので、学院長室までお願いします」 「学院長が?」 学院長に呼び出される用事なんて―― 「あ」 あった。思いっきりあった。昨日の出来事ですっかり忘れてしまっていたが、 間違いなく、あの件だろう。 口に出すのも、頭に思い浮かべるのも忌まわしいあの件。 つまり、だ、だだ、ダブり。 ……ルイズの処遇をどうするのか、決定したようだ。 「……だ、大丈夫ですか?」 急に顔を真っ青に染めたルイズを見て、心配そうに声をあっけるメイド。 「だだだだだ、大丈夫よ。ありがとう。……すぐ行くわ」 ややふらつきながら歩き出すルイズ。 それを不思議そうに見送りながら、メイドはポツリと漏らした。 「……すごい。本当にあの人、『くぎみやりえ』だ」 「…………」 「…………」 気まずい。 「…………」 「…………」 学院長室に入ると、そこにはオスマンだけでなく、 ギトーやコルベール……主要な教員全員が集まっていた。 オスマンも誰も、何一つ喋らず。沈黙が部屋を支配している。 「…………」 「…………」 ルイズが重い空気に耐え切れず、顔をうつむける。 ……やはり、留年なのか。ダブりか。そうなのか。 勇気を振り絞り、口を開こうとした瞬間。 オスマンの言葉が、重く響く。 「ふむ……ミス・ヴァリエール」 「……はい」 何故か、どよめきが起こった。 ルイズは覚悟を決め、顔を上げる。 「今からわしが言う言葉を、そのまま繰り返しなさい」 「……はい?」 なに? 「そのまま、繰り返すんじゃ。いいかの?」 「は、はい。わかりましたけど……」 なんだ。何をやらせるつもりだ。処分を言い渡すんじゃないのか。 不意に、猛烈に嫌な予感がルイズを襲った。 そして、それは的中する。 「では、ゆくぞ。……『べ、べつに、あんたのために作ってあげたんじゃないからね!』」 「……………………べ、べつに、あんたのために作ってあげたんじゃないからね!」 再びどよめく室内。 ルイズの脳裏を駆け巡る、昨夜の宴会の記憶。 「『か、勘違いしないでよね! あ、あんたのことなんか何とも思ってないんだから!』」 「……………………か、勘違いしないでよね! あ、あんたのことなんか何とも思ってないんだから!」 まさか。 「『ぎ、義理よ義理! ざ、材料が余ったし、誰にも貰えないあんたが哀れだったから、 ほんと、それだけなんだから!』」 「……………………ぎ、義理よ義理! ざ、材料が余ったし、誰にも貰えないあんたが哀れだったから、ほんと、それだけなんだから!」 「これは……」 「ややぎこちなさはあるが……」 「なんという……なんというツンデレ……」 「テンプレ通りの陳腐さ……だがそれがいいっ……!」 「く、くぎゅうううううううううううう!」 「くぎゅううううううううううう! 罵って! 変態って罵って!」 まさか、また、なのか。またなのか。 ルイズはオスマンの顔を何気なく見て、目をひん剥く。 泣いてる! こいつ泣いてるよ! 「まさか、生きているうちにこれほどのツンデレに会えるとはの……長生きはするもんじゃ」 「オールド・オスマン! 私は今、猛烈に感動しています……!」 マジ泣きだ! み、ミスタ・コルベールもマジ泣きだ! なんだこいつら! 「ミス・ヴァリエール。……そなたは、『くぎみやりえ』なのだな」 「だから、その、『くぎみやりえ』? っていったい――」 「わかっておる。言わずとも全てわかっておる。おめでとう。本当におめでとう」 ルイズの胸には殺意。 わかってねぇだろクソジジイ。殺すぞ。 「本当におめでとう。そして、ありがとう。もう、戻って宜しい」 「あ、あの、私の進級の件は……?」 「んなもん決定じゃ。進級に決まっておる」 嘘ぉ! 「ほほ、本当ですか、オールド・オスマン……!」 「当たり前じゃ。一体誰が、『くぎみやりえ』を留年なぞさせるものかっ!」 オスマンの言葉に、揃ってうんうんと頷く教師陣。 え、そのおかげなの? 「ご苦労じゃった。戻りなさい」 閉められた学院長室の扉を背に、息を吐くルイズ。 呟く。 「だから、『くぎみやりえ』って一体なんなのよ……!」 その夜は、学院中の全員が宴会に参加した。 翌日。 もはや状況は完全にカオス化していた。 「ミス・ヴァリエール! アンリエッタ女王とマザリーニ卿が、あなたに会うため学院にいらっしゃるようです! あと数時間で到着するとのことで――」 「やぁ愛しいルイズ! 僕だよ、ワルドだ! きみが『くぎみやりえ』だと聞いて、飛んできたよ! さぁ早速今すぐ婚姻を――」 「ジュール・ド・モット伯爵が、君に会いに――」 「アルビオンのウェールズ皇太子が――」 「クロムウェル大司教――」 「が、ガリアのジョゼフ一世から親書が――」 「ジェリオ・チェザーレと申します。聖エイジス二十三世の使いで――」 「ゲルマニアのアルブレヒト三世が――」 「え、エルフ? エルフだって!?」 大騒ぎの渦中の中、呆然と立つルイズ。 何なの、一昨日からのこの騒ぎ。 『くぎみやりえ』ってなに。 一体、この『奇妙』な出来事は――なんなの。 「ああ、ああ、ルイズ、ルイズ・フランソワーズ、私の懐かしいお友達! どうかその声を聞かせてちょうだい! そう、『くぎみやりえ』を!」 「ルイズ、僕のルイズ、さぁこの婚姻届にサインを、そして『くぎみやりえ』を――」 ルイズは、学院の中庭、中心に立ち尽くす。 それに群がる大勢の人々。 次々に到着する馬車、グリフォン、ヒッポグリフ――。 混乱の中、口にされる言葉は揃いも揃ってひとつ。 『くぎみやりえ』『くぎみやりえ』『くぎみやりえ』――。 キレた。 しらない。もうしらない。何が起きようがかまうものか。 差し出された婚姻届けを地面に叩きつけ、差し出される手をはねのけ、 群がる人々を押しのけ、ルイズは絶叫! 「だから! 『くぎみやりえ』って何なのよ!! もおおおおおおおおおおおおおおおお!」 世界が、止まった。 キュルケが呆然としてこっちを見ている。 タバサの本が手からずり落ちた。 ギーシュの口に咥えていた薔薇が地に落ちた。 モンモランシーが香水の瓶を取り落とす。 マルコリヌが食いかけのピザを口から離す。 アンリエッタの王冠は頭からずり落ちそうで、ワルドの帽子の羽がはらりと宙を舞う。 そこに居る全員の頬を風が撫ぜ、草木は緩やかに揺れた。 雲は流れ、光が差し込み、鮮烈な緑を映し出す。 ルイズの荒い息だけが、そこに響いていた。 ルイズは、退学になった。
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>>back >>next かつて名城と謳われたニューカッスルの城は無残に瓦礫と化していた。戦場跡には人間の体が焦げた臭いが立ちこめている。 風が死臭を運んだ。死体を避けながら瓦礫の間をぬって歩くワルドは、思わず顔を顰める。 スクウェア・クラスのメイジでありトリステイン魔法衛士隊のグリフォン隊隊長であったワルドには、もちろん戦場など珍しいものではない。 (だが、被害が二千とは多すぎる。それもすべて、あの一匹の幻獣によって壊滅的な打撃を受けたのだ……) 左腕がずきりと痛んだような気がして、ワルドは手を伸ばしかけた。ち、とワルドは己に向かって毒づいた。 ルイズの使い魔によって切断され、もはやそこには左腕はないのだ。 吐き気をもよおすような臭いを運ぶ風が吹くたびに、ワルドの左袖ははたはたと揺れた。 (それにしても、異様な光景だ) ワルドの周りでは『レコン・キスタ』の兵士たちが黙々と瓦礫をどける作業を行っていた。誰一人として宝漁りなどするものがいない。 みな、『婢妖』に頭を乗っ取られ、人間ではなくなった兵士であった。見ると、片腕を吹き飛ばされたり、目が潰れた兵士も混じっていた。 (もはや血もでないのだろう。死体を操っているようなものだ) むしろ兵士としてはよほど有用だな、とワルドは冷酷に呟いた。 自分がウェールズを刺した場所にたどり着いたワルドは、右手で杖を抜こうとした。すると、誰かが遠くからワルドに声をかけた。 「子爵! ワルド君! 我らが友人、ウェールズ皇太子は見つかったかね?」 「ただいま探索をさせるところでございます、閣下」 そう言ってワルドは一礼した。 近づいてくる男は三十代半ばだろうか、一見すると聖職者のような、緑色のローブとマントを身に付けている。 高い鷲鼻に碧眼、カールした金色の髪が丸い球帽の裾から覗いている。 「君の討ち取ったウェールズ皇太子の亡骸はぜひとも必要なのでね! 燃えてなければなお都合が良いがな。して、探索とはどうするつもりだね、子爵?」 「婢妖に血の臭いを追わせます。ウェールズの血が私の杖に残っていますので」 そう言いながら、ワルドはマントの下から婢妖を出した。ミス・シェフィールドに貸し与えられたものである。 婢妖はワルドの杖にからみつくようにして血の臭いを嗅いだ。そして、しばらく辺りを飛び回っていたが、やがて中庭の一端を指した。 なるほど、そこだけ土が掘り返され、小さな石が墓石代わりにのせられている。傍には花まで添えてあった。 「ウェールズはあそこに埋葬されています、オリヴァー・クロムウェル閣下。おそらくはルイズ・フランソワーズのやったことでしょう」 「そうか、心優しいことだな、君の元婚約者は! もっとも、するなら火葬にするべきだったな。埋葬したおかげで、墓石が我々の目印になったわけだ!」 閣下と呼ばれた男は、にかっと笑みを浮かべてワルドの肩を叩いた。 ワルドはわずかに頬を歪める。しかし、すぐに真顔に戻った。 「さて、我らが友人、ウェールズ皇太子にはもう一働きしてもらわなくてはな! 余としても死人に鞭打つようなまねはしたくないのだ。 もっとも、彼はすこぶる協力的であってくれるはずだがな……」 軽口を叩くクロムウェルのローブの下から、びゅる、と何かが飛び出した。ワルドの婢妖より一回り大きいそれは、あっという間にウェールズの墓の下に潜りこんだ。 何かが蠢くような音が微かに聞こえてくる。満足そうに男はそれを眺めていた。 やがて……ウェールズ皇太子の白い腕が、ぼこりと土から突き出された。 ルイズたちが魔法学院に帰還してから三日後、アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の婚姻が発表された。式は一ヵ月後である。 それに伴い、トリステイン王国と帝政ゲルマニアは軍事同盟を締結する運びとなった。 直後、アルビオンの新政府樹立の公布がなされ、新皇帝クロムウェルからの打診により両国との間に不可侵条約が結ばれた。 トリステイン魔法学院にも平和が戻り、ルイズも穏やかな生活に戻ることとなる――はずであった。 「――なのに、なな、なんでこんなことになるわけ!? とと、とらはいないし! 変なのは来るし!」 半泣きになってわめくルイズに、目の前の妖魔(としかルイズには見えなかった)が言う。 『お嬢さん、安心しろ~。あたしたちは敵ではないぞう』 『ずーいぶん探したんだよぉ……60年も間違えるとはなーあ』 『じーさんが流れを読み間違えたせいだよう』 『ああっ、あたしゃ悪くないぞう!』 自分で会話を始める妖魔に、ルイズは頭を抱える。まったくもって散々な一日であった……。 朝……。 ルイズはぐっすりと眠っていた。それはもう、朝食の時間に間に合わないほどにぐっすりと眠っていたのであった。だから、目を覚ましたルイズは開口一番慌てふためきながら叫んだ。 「どど、どうして起こしてくれなかったのよ、とら――!」 寝ぼけ眼をこすりながら叫ぶルイズ。その予想に反して、とらからの返事はなかった。高くなった日が差し込んでくる部屋には静けさが漂っていた。 あれ、とら? どこ? と呟きながらルイズは部屋を見渡した。普段は、とらは夜には散歩に出かけ、朝になるとルイズの部屋に帰ってきてルイズを起こしてくれるのだが…… 「とら? とら、どこー? ちょっと……出てきなさいよ、とら! もう!」 次第に不安になってキョロキョロとルイズは周りを見渡す。だが、いくら部屋の中を探してみても、自分の使い魔の姿はどこにもないのだった。 急に焦りはじめたルイズは、ベッドの下に押し込んであった古ぼけた鞘から、デルフリンガーを引っ張り出した。 鞘から抜かれた途端にデルフがまくし立てる。 「おうおい、娘っ子! 久しぶりに抜いてくれたと思ったら、あいかわらずちっせー胸――」 「黙りなさい」 「はい」 ルイズが鬼のような形相になってデルフリンガーを睨むと、インテリジェンスソードはピタリと軽口をやめた。 「デルフ、とらがどこ行ったのか知らない? 昨日の夜から帰っていないみたいなのよ」 「さぁね」 「……正直に言わないと溶かすわよ? あ、コラ?」 ドスの利いたルイズの脅しの言葉に、デルフリンガーは動揺した様子もない。 「ああ、溶かすなら溶かせよ、娘っ子。いっそせいせいするね」 「ど、どうしたのよ、デルフ」 「どうしたもこうしたも……うっ……うぐっ……うう」 突然、おいおいとデルフリンガーは泣き出して、ルイズが面食らってしまった。この涙らしき水は一体どこから出ているのだろう? 「娘っ子よ……わ、わかるか? 何百年もずっとずっと相棒を待ち続けて、とうとう見つけたときの俺の気持ちが! うぐっ…… し、しかも、そいつは最強の使い手と来たもんだ! ああ、そうさ。俺は感動したね。こんな錆びた体でも、心が震えたよ」 う、とルイズは言葉に詰まる。なるほど、とらを引き当てたと言えば、デルフリンガーもルイズと立場は一緒かもしれない。 「それがどうだ。相棒ときたら、俺を使おうともしねぇ! うぐっ……畜生、俺はちゃーんと教えてやったんだ。『お前の心の奮えが俺を強くする』ってな! そ、そしたら相棒、なんて言ったと思うよ、娘っ子? よう! なんて言ったと思うよ!?」 「し、知らない」 これまでの不幸を全てぶつけてくるような剣幕のデルフリンガーに、ルイズは思わずたじろぐ。デルフリンガーは自嘲気味に続けた。 「相棒の奴……『獣にゃ心なんざねぇ』だってよ。そうさ、相棒は無敵だ、俺なんていらねぇのさ……さぁ、溶かすなら溶かせよ娘っ子! せいせいすらぁ!」 泣きながら大声で叫んだデルフは、それっきり、がっくりと黙り込んだ。ルイズも黙った。部屋には哀しい沈黙が立ち込めた。 やがて、寂しそうにデルフリンガーは呟いた。 「相棒の行き先はしらね。ここ二三日、鞘から抜かれてもいねえし」 「……そのうち、いいことがあるわ」 ルイズはそっと呟くと、優しくデルフリンガーを自分のベッドに下ろしてやった。 (とにかく、とらを探しにいかなきゃ……とらに限って、危険な目にあってたりなんかしないと思うけど……。そうだ、あのメイドに聞いてみよう) 手早くマントを羽織り、ルイズは部屋を出る。静かにドアを閉める時、デルフの押し殺した嗚咽が扉の向こうから聞こえていた……。 >>back >>next
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前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 トリステイン魔法学院にある寮の一室。ここの寮生であるルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの部屋のベッドには彼女が召喚した少女が横たわり、夜も更けようかというころ、ようやく目を覚ます。 「やっと起きたわね」 部屋の主、ルイズは尊大に少女に声をかける。 「おはようございます」 少女はまだ覚醒しきっておらず、目をこすりながら答える。 「おはようございますじゃないわよ!あんた昼間のは何、平民が貴族にあんなことしていいと思ってんの?」 「えっと、ごめんなさい。よく覚えていないんです」 そう答えた少女にルイズはあきれかえる。 「覚えていないって、まぁいいわ。ところであんた名前は」 「はい?」 「名前よ名前。あんたの名前教えなさいよ」 「えっと、アンジェリカです」 「ふーん、じゃあアンジェって呼ぶわね」 「はい。ところであなたのお名前は何ですか?」 「わたしの名前?昼間聞いていなかったようね。光栄に思いなさいよ貴族に二度も名乗って貰えるんだから。」 そういって高らかに名乗りをあげる。 「わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの貴族よ!」 ルイズは『決まった!アンジェリカは賞賛の眼差しでこちらを見てるに違いない』そう思っていたが、 「はい、ルイズちゃんですね」 現実は違う、感情の起伏がないような、機械的に微笑を浮かべていた。 「ルイズちゃんって何よ!ともかくあんたはわたしの使い魔なんだからね!わかった?」 「はい、わかりましたルイズちゃん。あの質問があるんですけど」 「質問?何よ、言ってみなさい」 「貴族とか使い魔とかって何ですか?」 「貴族も使い魔も知らない、メイジって言葉も知らない?」 ルイズの問いにアンジェリカは知らないと答える。 「まったく、貴族もメイジも使い魔を知らないなんてどこから来たのよ」 「イタリアから来ました。ところでここはどこなんですか?」 「ここはかの高名なトリステイン魔法学院よ。そんなことも知らないなんて、イタリアってどんだけ田舎なのよ」 「まほーがくいん?」 「そう、魔法学院。今日からあんたはわたしの使い魔になってもらうからね。使い魔の仕事については・・・」 「あの、ルイズちゃん」 ルイズの説明を遮って、アンジェリカが喋る。 「わたし、マルコーさんの所に行かないといけないの。どうやったらローマに帰れますか?」 「無理よ、『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ、元の場所に帰す魔法はないのよ」 「よく・・・わかりません」 「だからどうやったらそのイタリアとかいう場所に帰れるか知らないって言ってるの!」 「そんな、じゃあ・・・!?」 アンジェリカがルイズに詰め寄ろうとすると、彼女の左手に刻まれたルーンが熱を帯び、彼女に植え付けられた条件付けを侵食する。 ―ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になれ― アンジェリカの条件付けは上書きされた。 ルイズは突然雰囲気が変わったアンジェリカに慌てて声をかける。 「ちょ、ちょっとアンジェ、大丈夫なの?」 「はい、大丈夫ですルイズちゃん。じゃあ、わたしはルイズちゃんの使い魔になればいいんですね」 「そ、そうよ。でもあんた秘薬とか探したり、わたしを守ったりするのは無理そうだから・・・」 ルイズは従順になったアンジェリカに驚きながら、一人で呟く。 「ルイズちゃん、どうしたんです?」 「何でもないわ。そうね、あなたにできる仕事といったら、掃除に洗濯、あとはその他雑用ってとこかしら。できるわよね?」 「はい、そのくらい公社でもやってましたから」 公社とは何だろうか、疑問に思ったがまた後で聞けばいい、ルイズはそう判断した。そうだ、大事なことを忘れていたと、アンジェリカに一つだけ言っておかないと。 「ねぇ、アンジェ。さっきからルイズちゃん、ルイズちゃんって、少し馴れ馴れしいわよ。ちゃんとご主人様とかルイズ様とかにしなさいよ」 「はい、わかりましたルイズさん」 大して変わってない気がするが、これ以上は何を言っても無駄かも、そう思い話を打ち切る。 「しゃっべたら眠くなってきたわ」 じゃあアンジェは床で寝なさい、そう言おうとしてさっきまでアンジェをベッドに寝かしていたのを彼女は思い出す。いまさら床に寝ろなんて言えない。 ルイズはネグリジェをアンジェに投げ渡す。 「ちょっと大きいかもしれないけど、それに着替えなさい」 そういうとルイズもネグリジェに着替える。 「着替えた?じゃあ今日は一緒のベッドで寝るのを許して上げる。か、感謝しなさいよね!」 「ルイズさん!ルイズさん!」 アンジェリカがなにやら興奮している。 「何?どうしたのよ」 「見て下さい、月!月が二つあります」 「それがどうしたのよ」 「トリステインでは二つ月があるんですね。イタリアでは一つしか見えませんでした」 まだまだ問題が山積しているようだ。 しかし、ルイズは睡魔に負け、早々に眠りについてしまった。 「あれ?ルイズさんもう寝ちゃったんですか?じゃあ私も寝ちゃいます。お休みなさい」 Episodio1 Il mio nome e Anjelica 私の名前はアンジェリカ 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第十二話 気絶したフーケを捕らえ、タバサとキュルケは元来た道を大急ぎで戻ると、意識を失ったルイズを学院に運び込んだ。 キュルケが強引に引っ張ってきたモンモランシーのおかげで大体の傷は治り、特に別状はないという。 それでも、ルイズは目を覚まさなかった。 結局、事の報告は後回しとなり、タバサとキュルケの二人はつきっきりでルイズの看病にあたることとなったのだった。 そして、その日の夜 「ぅ……ん……」 ルイズが目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋であった。 キュルケが上からこちらを覗き込んでくる。 その傍らにはタバサもいた。 「やっとお目覚めね。まったく、いつまで寝てるんだか」 おかげで舞踏会に行けなかったじゃない、とキュルケは腕を組みながら言った。 「……ごめんなさい」 ルイズがしょんぼりとした表情で謝る。 それを見て、キュルケは微笑んだ。 「ま、いいわ。それより、あのカメなんとか……」 「仮面ライダー」 タバサが突っ込む。 「そうそう、それそれ。あれって一体何だったの? 詳しく話してみなさいよ」 ルイズは一瞬顔を曇らせたが、しばらくすると体を起こし、ゆっくり口を開いた。 ミラーワールド、モンスター、仮面ライダー…… キュルケは、ルイズの口から語られる信じられないような話に目を丸くしていた。 一方のタバサは、表情一つ変えずに話を聞いている。 「……なるほど。だから、そのカードデッキは破滅の箱なんて呼ばれてたのね」 ルイズの話が一段落すると、キュルケがルイズの手元にあるタイガのデッキを指差しながら言った。 「多分、そうでしょうね。……それで、今日あったことだけど……」 ルイズがミラーワールドでの出来事を話そうとした時、突然部屋の扉が開かれた。 「ひっ! あ、アサクラ!?」 扉の前に立つ浅倉を見た途端、ルイズの顔から血の気が引き、青ざめる。 それを見ると、浅倉は笑いながら彼女がいるベッドへと近づいていった。 「いつもの偉そうな態度はどうした? 俺に叩きのめされたのが、そんなに怖かったのか?」 「い、いやっ! 来ないで、来ないでぇっ!!」 ミラーワールドでの恐ろしい体験が脳内に甦り、ガタガタとその身を震わせるルイズ。 そんな彼女と浅倉との間に、キュルケが割って入った。 「ちょっとアンタ! 一体ルイズに何をしたのよ!?」 キュルケがきっ、と浅倉を睨み付ける。 今まで浅倉をダーリンとよび、恋心を抱いていたキュルケであったが、今の彼女にそんな気持ちは微塵もない。 むしろ、友を傷つけたことへの怒りの感情の方が強くなっていた。 そんな彼女を浅倉はフン、と鼻で笑う。 「そのデッキを手にした今、こいつも一人のライダーだ。ライダー同士、戦うのは当たり前だろう?」 「なら、これからもルイズと戦い続けるとでもいうの?」 「いやっ!」 キュルケの問いかけにルイズが反応し、膝を抱えて体を縮こまらせた。 その目には涙が湛えられている。 「もう戦いたくない……! もう戦いたくなんかないよ……!」 浅倉はそんなルイズに冷めた目を向けると、再びキュルケの方へと視線を戻した。 「だとしたら、どうする?」 怒りの形相で睨み続けるキュルケに、浅倉は余裕の表情で問い返す。 「……なら、容赦しないわ!」 「ほう、やるか?」 そう言って、キュルケは杖を、浅倉はデッキをそれぞれ取り出した。 そんな二人を、ルイズは心配そうに見つめている。 「待って」 不意に聞こえてきたタバサの声に、皆の視線が彼女に集中する。 そして、タバサの口から思いがけない言葉が発せられた。 「……私が仮面ライダーになる」 「ダメよタバサ! 危険よ!!」 タイガのデッキに伸ばされたタバサの手を見て、ルイズはタバサに渡すまい、と両手でデッキを抱きしめた。 しかしタバサが杖を一振りすると、デッキはルイズの元を離れタバサの手に収まった。 「誰かがライダーにならないと、ルイズが食べられてしまう。でも、今のルイズに変身は無理」 タバサが淡々と理由を述べていく。 「それに、まだアサクラに助けてもらったお礼をしてない。私なら、相手をしてあげられる」 浅倉の方を向き、微笑みかけた。 「……本気なの? アサクラには摩訶不思議な怪物がいるし、下手したら死んじゃうのよ?」 納得のいかないキュルケがタバサに尋ねた。「こういうのには慣れてる」 「でも……」 「俺なら誰だって構わないぜ。」 尚も食い下がろうとするキュルケを、浅倉が邪魔をした。 「それに、こいつよりもよっぽど楽しめそうだしな」 そういうと、浅倉はルイズの方へ顔を向けた。 「情けない奴だ。周りの人間にまで迷惑をかけておいて、役立たずにもほどがある」 浅倉の放った言葉が、ルイズの胸にぐさりと突き刺さる。 「そのくせプライドだけは人一倍、か。笑わせるな。……少しは身の程を知ったらどうだ?」 ルイズは堪らず、目から涙をポロポロとこぼし始めた。 「私は……私は……」 「ルイズ! ……アサクラ、あんた何てこと言うのよ!! 誰のせいでこんなことになったと思ってんの!?」 キュルケが再び浅倉に食って掛かる。 「俺は事実を言ったまでだ。……寝るぜ?」 それだけ言うと、浅倉は部屋の隅まで歩いていき、床の上に寝転がる。 そして、キュルケが投げ掛けてくる憎しみのこもった視線をよそに、浅倉は深い眠りへと落ちていった。 翌日。 ルイズ、タバサ、キュルケの三人は、学院長室にてフーケ討伐の報告を行っていた。 しかし、いつも通り無口なタバサに加え、ルイズも終始沈んだ表情で黙りこんでいたため、報告はもっぱらキュルケによってなされていた。 「……というわけで、今回の成功はルイズとその使い魔の活躍があってこそのものなのです」 『ルイズ』の部分を特に強調して、キュルケが報告を終えた。 「なるほどのう。まさか、あのロングビルが……」 オスマンが残念そうに溜め息をつく。 「ともかく、ご苦労じゃった。……そうじゃ、王室にも報告しておこうぞ。きっと何かしらの褒美がもらえるじゃろうて」 先ほどの表情から180度変わって、ニッカリと笑いながらオスマンが言った。 キュルケとタバサの顔にも、それぞれ笑みが浮かぶ。 が、ルイズの表情は相変わらず沈んだままだった。 「ミス・ヴァリエール、どうかしたかの? 元気がないようじゃが……」 「え? あ、いえ。何でもありません。ありがとうございます」 「……そういえば、破滅の箱を君の使い魔殿に渡す約束じゃったな。約束通り自由にしてよいと伝えておいてくれ」 ルイズはそれを聞くと、コクリ、と力なく頷いた。 「それと、ついでじゃ。これも渡しておいてくれ」 そう言って、オスマンは一枚のカードを取り出した。 「これは……?」 「荒らされた宝物庫の整理をしてたら出てきたものでの。破滅の箱に入っていたものとそっくりじゃから、君の使い魔なら使えるじゃろう。 わしには無用の品じゃ。もっていくがいい」 「……ありがとうございます」 ルイズは小さな声でお礼を言いながら、手渡されたカードを懐にしまった。 「ルイズ。ちょっと」 「……なに?」 学院長室からそれぞれの部屋へと戻る途中、ルイズはキュルケに引き止められた。 ――バチン! 振り返ったルイズの頬を、キュルケの手のひらが思い切りはたき、赤く染めた。 ルイズが驚いた顔で頬に手を当てる。 「アンタ、いつまでくよくよしてんのよ! らしくもない!」 キュルケが腰に手を当て、ルイズを見据えながら言った。 「いい? フーケに勝てたのはルイズが破滅の箱を使って、ゴーレムの動きを封じたからなの! ルイズのおかげ! わかる!?」 「でも、それは破滅の箱の力で……」 「破滅の箱を使って戦おうと勇気を出したのはアンタでしょう? もっといつもらしく誇りなさいよ!」 ルイズの反論を遮り、キュルケが続ける。 「例え魔法が使えなくても、諦めずに一生懸命頑張ってきたのが今までのアンタじゃない! そんなルイズはどこに行っちゃったのよ!?」 呆然と話を聞いていたルイズが、暗い表情のまま顔を下に向けた。 名門貴族に生まれながらも魔法を使えず、優秀な家族との落差に悩んだ日々。 失敗ばかりで散々ゼロのルイズと馬鹿にされ、劣等感に苛まれ続けた学院での毎日。 やっと成功したサモン・サーヴァントでも、呼び出した使い魔の扱いすら上手くいかず、逆に虐げられる始末。 それらの辛い記憶がルイズの頭の中を駆け巡り、涙となって目から溢れ出てきた。 「……何がわかるのよ」 俯いたまま、ルイズが震えた声をあげた。 「あなたに私の何がわかるのよぉっ!!」 顔をあげてその泣き腫らした表情をキュルケに向けると、ルイズは大声で言い放ち、自室に向かって勢いよく駆け出した。 「あっ、待ってルイズ!」 キュルケが止めようと手を伸ばしたが、走り出したルイズには届かず空を切る。 「ルイズ……」 自らの思いが友の心に届かなかったことを歯がゆく感じながら、キュルケはその場に立ち尽くすのだった。 同じ頃、ミラーワールドのとある森の中。 フーケとの戦いの最中に気配を気づかれた白い怪物のうち、王蛇の攻撃から免れた一体がそこにいた。 くねくねとした動きで怪物が森の中を歩いていくと、しばらくして広大な湖が目の前に現れた。 トリエステンとガリアに跨がる湖、ラグドリアン湖である。 水の精霊がいることで知られる湖だが、鏡の中の異世界では異様な光景が広がっていた。 今しがた辿り着いた白い怪物と同じ怪物があちこちから集まり、続々と湖へと向かって行ったのである。 不気味な唸り声をあげながら、無数の怪物がひたすら前に進んでいく。 たどり着いた怪物も湖に向かおうと動きだした、その時。 怪物が突然どさりと前のめりに倒れると、手足をピクピクと動かしながら体を丸め始めた。 そしてしばらくすると、背中がボコボコと盛り上がり、固い表皮にヒビが入る。 次の瞬間、白い怪物の体を破り、羽の生えた青い怪物が姿を現した。 青い怪物はすぐに頭に生えた羽を羽ばたかせ、湖の上を飛び始める。 それから、同じようにして数匹の青い怪物が現れ湖の上を舞うと、何処へともなく飛び去って行ったのだった……。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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食事を終えたルイズは、バッツを連れ教室へ向かう。 教室に着くと、そこには多くの生徒と、使い魔達がいた。 そしてルイズ達が席に着くと、先生らしき人物が教室に入ってくる。 「皆さん、おはようございます。今年の春の使い魔召喚の儀は無事成功したようですね。 おや? そこの制服を着ていない生徒は?」 「いや俺は生徒じゃ「私の使い魔です。ミセス・シュヴルーズ」 「おやおや、ミス・ヴァリエールは珍しい使い魔を呼んだのですねぇ」 バッツに興味を示した、シュヴルーズに対し、小太りの生徒が、 「ミセス・シュヴルーズ! ゼロのルイズは使い魔の召喚に、失敗してどこかの楽師を雇っただけだと思います!」 「なんですって! ミセス・シュヴルーズ! かぜっぴきのマリコルヌが侮辱し「まぁまぁ、ルイズ落ち着けって」・・・何でもありません」 マルコルヌの挑発にルイズは怒りで立ち上がり反論しようとするが、バッツに【なだめられ】落ち着きを取り戻すと座り直した。 しかし、ルイズが落ち着きを取り戻す前に、言った【かぜっぴき】に対しマルコルヌが怒りを持ち、 「ちょっと待て! 俺はかぜっぴきじゃナ・・・ナンデモアリマセン」 反論しようとするのだが、ピクリと反応した後、まるで【あやつられた】ように椅子に座る。 「では、今日は復習から始めます」 ミセス・シュヴルーズは、そういうと授業を開始する。 バッツも真剣に授業を聞く。授業の内容は魔法の話でこのハルケギニアでは【風】【水】【火】【土】の4つの属性が存在しており、 そして得意属性は一人一つで、さらにそこにいくつ属性を足せるかで【ドット】【ライン】【トライアングル】【スクエア】と変わるとの事らしい。 特に興味深いのは属性の足すと言う点だ。 彼の世界の魔法には属性を足すという概念は無く、基本的に魔法屋で買った魔法をそのまま使うので属性は固定であり、一つの魔法に対し、 複数の属性を付与することは無かったのである。 そして魔法の基本の話が終わると、今度は土の魔法の授業へと移っていく。 土の魔法と生活の関係を淡々と話して行き、そしてその例として【錬金】をシュヴルーズが披露する。 シュヴルーズが呪文を唱え杖を振るうと、石が金色に光る真鍮へと変わる。 「み、ミセス・シュヴルーズそれってもしかして黄金ですか!?」 「いいえ、ミス・ツェルプストーこれは真鍮です。私はトライアングルですので・・・黄金を錬金するには、 土のスクエアが万全の体制で行わない無いとできませんよ」 「そうですか・・・」 「さて、このように錬金は対象を別の物に変える魔法です。さて、実際に他の方にもやってもらいたいと思います。 そうですね・・・ミス・ヴァリエール今日は貴方にやってもらおうと思います」 シュヴルーズがルイズを指名すると、生徒達は一斉に騒ぎ始める。 「待ってください! ミセス・シュヴルーズ! ルイズに魔法を使わせるのは危険すぎます!」 「そうだ! そうだ! ルイズに魔法を使わせたらやばいです!」 「何を言っているのですか? ここは学園ですよ? 何事も挑戦するのは大切なことですよ」 「いえ、挑戦するとかそういう問題じゃありません! とにかくルイズに魔法を使わせるのは危険です!」 「やります!」 周りがやめろと言う中、ルイズは教壇へ行くと錬金の呪文の詠唱を始める。 ルイズが詠唱を始めると、生徒達は我先にと隠れ始める。 生徒達の異常な警戒にバッツは、念のために持っている盾を構える。 そしてルイズは詠唱を終えると、杖を石に向かい振るう! ドカーン! 錬金を掛けられた石は何故か大爆発を起こし、周囲に破壊を撒き散らす! バッツは思わずナイトの特技である、かばうをたまたま近くにいた青い髪の少女に発動させながら盾で爆発を防ぐ。 もし、彼の持っていた盾が普通のものであれば、魔力を持った爆発を防ぐことは出来なかったが、 幸なことに彼が持っている盾は、【イージスの盾】魔力のこもった爆発も問題なく防がれる。 しかし、隠れ損なった生徒や、使い魔たちはルイズの錬金の爆発を受けてしまう。そして、突然の爆発に使い魔たちは混乱し暴れ始めてしまう。 流石に大型の使い魔は教室に入れなかったため、いないがそれでも中型の使い魔達の暴走は危険で大惨事になってしまう。 隠れていた生徒達は大惨事を覚悟したが、 ♪~♪~ 突然青春の1ページを表すかのような旋律と甘酸っぱい歌声が響く。 すると、暴れていた使い魔たちの動きがピタリと止まる。しかし、止まっただけで怒りが収まったようには見えない。 歌声の元であるバッツは、使い魔たちが動きを止めるのを確認すると歌をやめ、動きを止めた使い魔を1匹づつなだめ始める。 それを見た怪我の無い生徒達はあわてて自分の使い魔をなだめたり、水のメイジは怪我人の治療を始める。 そして、使い魔たちが再び動き出そうとすると、バッツは先ほどと同じ歌を歌い再び動きを封じ、またなだめ始める。 やがてすべての使い魔をなだめ終わると、バッツはいまだ気絶している生徒達に【そせい】を行い意識を取り戻させる。 そんな中、何故か爆心地にいたはずなのに、黒く焦げただけで特に怪我の無いルイズは、 「ちょっと失敗したわね」 と、一人呟く。 「ちょっと待てよ! ちょっとじゃないだろ! いつも失敗してるじゃないか!」 「そうだ! そうだ! いつも爆発させているゼロのルイズ!」 周りがルイズを攻め立てる中、バッツはいまだ気絶しているシュヴルーズをそせいさせる。 バッツに起こされたシュヴルーズは、周りの喧騒を止め、先ほどの爆発で気絶した生徒には保健室へ行くよう、 ルイズには教室の後片付けをそれぞれ指示をすると、本人も保健室へ向かった。 予断だがこのあと彼女は、ルイズと爆発にトラウマをもち、出来るだけ火の秘薬の保管庫やルイズに近寄らなくなったらしい。 教室にはルイズとバッツが残り教室の後片付けをしている。 最も、ルイズは机の上を拭くだけで、他の仕事は全てバッツに押し付けていたが・・・ しかし、バッツが殆どの後片付けが終わる頃になっても、ルイズは全体の半分も拭き終わっていなかった。 「ん、ルイズどうしたんだ?」 「・・・なんで・・・」 「なんで?」 「なんで何も言わないのよ!」 「ん? 何か言うことがあるのか?」 「なっ!?」 「だって、ルイズは今は魔法が使えなくても、これから使えるようになるように努力しているんだろ? だったら、慰める必要もないだろ?」 「無理よ・・・だってわたし今まで魔法を使えるようになるように努力してきたけど、何一つうまく行かないどころか 私の属性すら解らない・・・だからわたしの二つ名は【ゼロのルイズ】なんだもの・・・」 「へ? 属性がわからない?」 「そう、私が魔法を使うと【風】【水】【火】【土】どの属性でも爆発が起こるのよ」 「爆発だったら、【火】と【風】か【風】と【火】のラインの魔法にならないのか?」 「はぁ? なに言ってるのよ? 爆発する魔法なんてあるわけないじゃない!」 「ん~、なぁルイズ、魔法の属性って本当にその4つしかないのか?」 「へ? 確かに今使われているのはその4つしかないけど、一応ブリミル様は虚無って言う属性を持っていたらしいわよ」 「無!?」 「違うわよ! 虚無よ! 虚無!」 「え? あ、ああ、虚無か・・・」 「それで、他に属性があると何かあるのよ?」 「ああ、4つの属性じゃ無かったんだろ? ならそれと違う属性の可能性が高いかなぁって」 「無理よ! わたしはゼロのルイズよ! よりにもよってブリミル様と同じ虚無だなんて恐れ多いわよ!」 「・・・なぁ、ルイズ俺の知り合いでよく憶えてないけど(すまない、シド、ミド)確か成功した奴の口癖なんだけど、『失敗を恐れるな』って言葉があるんだ」 「失敗を恐れるな?」 「そ、挑戦もしない内から諦めるとか、何回も失敗しても失敗を恐れずに挑戦し続ければ必ずいつか努力は実るってことで、今まで自分が挑戦もしてないのに諦めたらダメって事。 まっそれはともかく、さっさと机を拭いて昼食にしないと午後の授業に支障が出るな」 ルイズはバッツにそう言われ、悩みが少し軽くなる感じを憶えつつも、今まで自分がバッツに対し主人らしいことを何一つしていないことに気づき、 自分が不甲斐なく思うと同時に、理不尽な怒りが彼女に降り積もる。 その結果、 「だったら貴方が残りの机を拭きなさい! 私は先に昼食にするから!」 ルイズは、そう一方的に叫び食堂へ向かってしまう。 「やれやれ、やっぱ俺じゃガラフやミド見たいな説得力は無いか・・・」 バッツはそう呟くとルイズが残した雑巾で残りの机を拭き始めた。 そして、机を拭き終えたバッツは片づけを終えたことをルイズに報告するために食堂へと向かう。 「あの・・・」 バッツが食堂の入り口に着いたとき、不意に声を掛けられ振り返ると黒髪のメイド服を着た少女がいた。 「ん? 俺に何か用か?」 「いえ、見なれない格好をしていたのでつい・・・」 「あぁ、俺の格好は旅人の格好だから見慣れないのはしょうがないさ。俺の名前はバッツ。君は?」 「あ、わたしはシエスタ、ここの使用人をやっています。もちろんメイジ様ではなくただの平民ですが。 あの、所でバッツさんはもしかしてミス・ヴァリエールの使い魔として召喚された楽師さんですか?」 「いや、ルイズの使い魔ってのは合ってるけど、俺は楽師じゃなくて・・・「やっぱり! 昨日の演奏聴きました! あ、あのまたあの お、音楽をき、聴かせてもらえないでしょうか!?」 ・・・って聞いてないし。 まぁ、いいけど・・・『グゥー』あ・・・」 バッツはシエスタに押し切られる形で歌を歌おうとするが彼のおなかの音がなり気まずい空気が流れる。 「ああ、もうお昼ですものね、良かったら厨房の方で食事を用意できますよ?」 「いいのか?」 「はい、もちろんですよ」 「んじゃ、頼むわ」 バッツはシエスタに連れられ厨房へと向かう。 厨房へ着くと大勢の料理人が一生懸命働いている。その中でも一番偉そうな料理人にシエスタは声をかける。 「マルトーさーん」 「おぅ、シエスタじゃないか! どうした?」 「はい、昨日言っていた楽師の方が、おなかを空かしているので食事を分けてもらおうかと」 「おぅ! このあんちゃんが例の楽師か! 待ってろ今美味いもん作ってやるからな!」 マルトーと呼ばれた料理人はそう軽快に叫ぶと、料理を続行する。 バッツはその様子を見て、ハープを力強い旋律で奏で、安らぐような歌声で【体力の歌】を唄う。 バッツの歌声を聴いたマルトー達は体の疲れが癒える感覚を得るがそれで仕事の手を止めることはせずに次々と料理を完成させていく。 そして、完成した料理の一部を持ってくる。 「おう! お待ち! 所でさっきのは魔法か?」 「いや、さっきの歌は旅をしている時に、吟遊詩人から教えてもらった歌だよ。だから努力すれば誰でも出来るぞ(たぶん)」 「じゃぁ、お前さんはメイジ様じゃないのかい?」 「あぁ、俺は平民に分類されてるよ。ただ旅をしていたから、ちょっと普通の平民よりも出来ることが多いだけで・・・ それよりも、この料理美味しいですよ!」 「おうよ! メイジ様は魔法で物を壊したり作ったり出来るが、俺たちのように、こんな美味い飯を作れないだろ!」 「俺としては、なんでメイジと平民の間にこんなに溝があるほうが不思議なんだが・・・最も記憶があやふやな俺が言ってもしょうがないが」 「ん? 兄ちゃん記憶があやふやなのかい?」 「ああ、召喚された時の弊害なのか、ちと記憶があやふやなんだよ」 「やっぱり、メイジって奴はきにいらねぇなぁ。良し! あんちゃん困ったことがあったらこのマルトーに相談しな!」 「はぁ、ありがとうございます・・・」 バッツはこの世界の人間は皆押しが強いのかと思ったが、よく考えると元の世界でも自分は流されてた事に気がつき、 周りが押しが強いのではなく、自分が流されやすいだけなのでは・・・と少しへこみながらも、食事を終える。 「ごちそうさまでした」 「お粗末さまでした」 「あ、シエスタこれだけのもの食べさせてもらったら、そのデザートを配るの俺も手伝うよ」 「いえいえ、お礼なら先ほどの歌で十分ですよ」 「いや、この料理はさっきの歌くらいじゃ足りないし、あれだけの生徒のデザートを配るのだってシエスタ一人じゃ大変だろ?」 「くすっ、じゃあ、お言葉に甘えますね」 「おう! あ、マルトーさんと、言うわけでシエスタの手伝いでデザート配ってくるからこの道具袋ここに置いといていいか?」 「別に構わんよ」 「ありがとう! じゃあ、行って来る」 バッツとシエスタはそれぞれデザートの乗ったトレイを持ち、バッツは男子にシエスタは女子にデザートを配り始める。 バッツがデザートを配っていると前の方にいた少年達の集団の中で金髪の少年が香水の瓶を落とす。 バッツは香水の瓶を拾うと少年達へと近づくと、 「なぁ、ギーシュ今お前、誰と付き合っているんだ?」 「そうそう、誰がお前の恋人なんだ?」 「やめてくれたまえ、薔薇と言うのは多くの女性を楽しませるために咲いているのだよ」 そんな声が聞こえて来るが、やれやれと思いながらも声をかける。 「この香水を落としたよ」 「む!? い、いや そ、そんな こ、香水僕は知らないよ!」 「あれ?それってモンモランシーの香水じゃないか!」 「ああ、確かにこの鮮やかな紫色はモンモランシーが自分用に作った香水だぞ」 「じゃあ、ギーシュが今付き合っているのはモンモランシーか!」 「ち、違う か、彼女の名誉のために言っておくが・・・」 バッツは香水を渡すとさっさと別のテーブルの生徒へのデザート配りに戻るが、 ギーシュと呼ばれた少年に周りの少年達は色々と問い詰めていく。 そして、バッツがデザートを配り終える頃には、栗色の髪をした少女と金髪の縦巻きロールの髪が目立つ少女の二人が、 ギーシュを叩き出て行くのであった。 バッツはそのことは全く気にせずに空になったトレイを持ち厨房へと戻ろうとするがギーシュが声をかけてくる、 「待ちたまえ! 君が不用意に香水の瓶を拾うから、二人の女性が傷ついてしまったではないか!」 「はぁ?」 「はぁ? では無い! 貴族である僕はあの時、知らないと言った! それを受けたら平民である君は気を利かせるべきでは無いかい?」 「あのなぁ、根本を正せばお前が二股をして、さっきの二人を傷つけているのに、俺の対応が悪いからあの二人が傷ついたなんて、 お前、貴族どころか人として最低のことをしているって気づかないのか?」 「そうだ! そうだ! ギーシュ、二股をしたお前が悪い!」 ギーシュとしてはバッツを悪く言うことで、自分の立場を少しでも良くしようとしたが、思わぬ反撃を受け名誉挽回するつもりが、汚名挽回してしまった。 「くっ、平民ごときが、貴族に反抗するのか! ならば決闘だ!」 「断る。元々お前が悪いのに、お前のプライドを満足させるための決闘なんてする気はない」 「はっ、口ばかりでとんだ臆病者だね君は」 「ああ、俺は臆病者さ。だが実際無謀な勇気ある奴よりも、臆病な奴の方が長生きできるんでな」 「ふっ、臆病者で何も出来ない君はゼロのルイズにぴったりだね!」 「はぁ? なんでそこでルイズの名前が出る?」 「ふん、君もルイズも二人共何も出来ない出来そこないだと言ったのだよ」 その言い様に、バッツの目つきが変わる。 「・・・前言撤回だ。決闘を受けよう。正し! 俺が勝ったらルイズが何も出来ないってことは訂正しろ!」 「ほぉ、平民である君が貴族である僕に勝った気でいるのかい? まぁ良い僕が勝ったら君は先ほどの二人にあやまった後、僕専属の楽師として一生こき使ってやるよ」 「ああ、条件はそれで良い。で、決闘場所は?」 「ああ、確かに平民の血をこの食堂で汚すのは忍びない、ヴェストリ広場で行おう」 「わかった」 バッツはヴェストリ広場へ向かうギーシュに着いて行こうとするが不意に後ろを引っ張られる。 なんだ? と、後ろを振り向くとそこには騒ぎを聞き付け駆けつけたシエスタとルイズがいた。 「ん、どうした? 二人共?」 「どうしたじゃないわよ! ギーシュと決闘って本気!?」 「そうですよ! バッツさん! 貴族に逆らうなんて殺されてしまいますよ!?」 「ああ、本気だ。あいつは俺を侮辱しただけなら許せたが、一生懸命努力しているルイズのことを侮辱した。 努力している奴を笑うことは許せないからな」 「そうじゃなくて! 魔法を使えないバッツがギーシュに勝てるわけ無いじゃない!!」 激昂しているルイズにバッツはポンと頭に手を置きながら、 「なぁルイズ、俺はさっきも言ったよな? 『失敗を恐れるな』って今回もそういうことさ魔法を使えないから、 ただそれだけで勝てないなんて、それは今までのことだからで、もしかしたら今回は違う結果が出るかもしれないだろ? でも、最初から諦めたらその可能性も消える。だから俺はルイズやシエスタが止めてもこの決闘は受ける!」 と言うと、彼は近くの少年にヴェストリ広場の場所へ案内するよう頼み去っていく。 そして、ルイズはバッツが食堂から出て行くのをただ唖然としながら見送った後、彼がいつもの道具袋を持っていないの気づく。 「ねぇ、そこのメイド!」 「は、はい。なんでしょうか?」 「バッツが持っていた道具袋知らない?」 「え、それなら厨房においていたはずですがそれが何か?」 「あいつ手ぶらで決闘に行ったのよ! 道具袋の中にはあいつの盾とか薬が入っているのよ!」 「! じゃあ、それを渡せば!」 「勝てなくても、そう酷いことにはならないはずよ!」 「こちらです! ミス・ヴァリエール!」 シエスタはルイズを引っ張るように厨房へ連れて行き、いきなり貴族を連れてきたことにびっくりしているマルトーにはシエスタが説明し、 ルイズはバッツの道具袋の中身を確認する。 「な? こ・これ、これを渡せばもしかしたらバッツは勝てるかも!」 ルイズはバッツの道具袋の中から、まるで物語の中から出てきたような神々しい剣を発見し、これを渡せばギーシュに勝てると確信し、 急いでヴェストリ広場へ向かうのであった。
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1でやること ■リムルダールのまちにて「まほうのかぎ」購入(ラダトームにも鍵屋はあるがまほうのかぎが必要) ■ガライのまち(ガライのはか:要まほうのかぎ)にて「ぎんのたてごと」入手 □メルキドのまちの入り口にてゴーレムを倒す(ようせいのふえが有ると楽) □ぬまちのどうくつにてドラゴンを倒し、ローラ姫を助ける。(要まほうのかぎ) □ローラ姫と宿に泊まる。(ゆうべはおたのしみでしたね) □ラダトームのしろにて王様に話しかけ、姫より「おうじょのあい」を入手 □たいようのいし入手 □ロトのしるし入手 □ドムドーラのまちにてあくまのきしを倒し、「ロトのよろい」を入手 □あめのほこらにて「あまぐものつえ」を入手 □せいなるほこらにて「にじのしずく」を入手 □「にじのしずく」を使用して橋を架ける □「ロトのつるぎ」入手 □りゅうおうを倒す □りゅうおうはいきていた!りゅうおうをたおす エンディング .
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前ページ次ページゼロの黒魔道士 「な、なんなのよコレっ!?」 ズゥーン、ズゥーンと大きな音が響き渡る…… 「ゴーレム!?でも大きすぎじゃないっ!?」 二つの月を覆い隠す大きな影…… 「お、おでれーた!?なんなんでぇこいつぁ!?」 そいつは校舎の壁を叩きつけ…… 「おそらく、“土くれ”」 こっちを睨みつけた……え?こっちを? 「う、うわぁぁっ!?」 ボクらのこと、バレてるっ!? ―ゼロの黒魔道士― ~第十二幕~ 追い立てる思い 急いでその場を逃げたんだ…… ゴーレムの上に乗ってた人(影しか見えなかったけど…)はゴーレムを伝って壊した壁の中に入っていった…… 「“土くれ”って――今日街で聞いた盗賊の?ちょっとぉ、こんな大きなゴーレムなんて聞いてないわよぉ!」 「“土くれ”のフーケ、壁を土くれに変え、ときには巨大なゴーレムで襲うことで有名」 「おでれーた!とんだ盗賊がいやがったもんだなぁ!あんなゴーレムそうそうお目にかかれねぇぜ!こいつぁおでれーた!」 息も切れ切れになりながら、ゴーレムから見えなくなる死角の壁までたどりついたんだ…… 「な、何よっ!“土くれ”!?た、たかが盗賊じゃないのよっ!!」 ルイズおねえちゃんが突然立ち上がり、来た道を戻ろうとしたんだ…… 「る、ルイズおねえちゃん!危ないよっ!」 マントの裾をつかんで止めようとする…… ズルズルとそのまま引きずられちゃった…… 「ルイズ!あんたじゃ何もできないでしょ!!」 「危険」 「娘っ子ぉ、ここぁ大人しくしときな!」 「うぅ~!目の前にいるのに~!!」 「だ、だから危ないんだと思うんだけど……」 ……ルイズおねえちゃんを止めるので精いっぱいで、 ……ボクたちは、ゴーレムを、“土くれ”のフーケを見送ってしまったんだ…… ……確かに、倒せたのかもしれない、でも…… ……ルイズおねえちゃんを危険な目に合わせるわけには……いかないよね? 「――…ふむ、つまり、そのまま逃してしまった、と」 翌朝、ボクたちは学院長室に目撃者として呼ばれたんだ…… ……やっぱり昨日のゴーレムは、“土くれのフーケ”だったんだ…… 壁にしっかりと、「『破壊の肉球』、確かに領収いたしました 土くれのフーケ」って書いてあったんだって…… わざわざそんなこと書くなんて、ジタンみたいな盗賊だなぁ…… 「はい、申し訳ございません、取り逃してしまって……」 ルイズおねえちゃんが、悔しそうに、拳をにぎりしめて言う…… 「いやいや、仕方あるまい、おぬしらに怪我が無くて何よりじゃよ」 オスマン先生が髭をしごきながら言う…… う~ん、オスマン先生って、マジメなときは偉そうでかっこいいんだなぁ…… 「大体、宿直の教師は誰だったのかねっ!!職務怠慢では!?」 「だ、誰だってサボってたりしてましたでしょっ!?ご自分の勤務態度はどうでしたの!」 ……何人かの先生たちが言い争いをはじめる…… ……それを見て、ルイズおねえちゃんがよりいっそう拳をかたく握りしめる…… ……うーん、たしかに、これって『みにくいあらそい』って感じだけど…… 「喝っ!!」 オスマン先生の声が、ビリビリ響く……思わず、帽子をギュッとつかんじゃったんだ…… 「教師の怠慢については我々全員が責任を感じ折り入って恥じるべきじゃろう!が、しかし、今はそれを議論する場では無いっ!!」 ……オスマン先生、すごいなぁ……空気が一気にひきしまる…… なんかこう……気をつけの姿勢のまま石化しちゃうような感じ…… 「しかし、こんなときにミス・ロングビルはどこへいったんじゃ!彼女の尻でもなでんと考えがまとまらんわいっ!!」 ……うーん……やっぱり、オスマン先生って『ダメな大人』なのかなぁ……? 「あら、皆様お揃いで」 「おうおう!ミス・ロングビル!『噂をすれば尻』じゃな!あ、やめて、こめかみは地味に痛いからやめてやめてやめてぇぇ……」 ……ロングビルおねえさんは、にっこり笑って、羽ペンの先の方でオスマン先生のこめかみをツンツンつついたんだ…… うぅ……あれはけっこう痛そうだなぁ…… 「――…コホン、ミス・ロングビル、この非常時に一体どちらへ?」 コルベール先生が話を戻したんだ ……その一言で、その場の空気がまた元の会議っぽいものに戻ったんだ…… 「えぇ、朝から急ぎ、調査を」 「ほぅ、調査とな?」 「えぇ。朝からフーケの噂を聞きまして、急ぎフーケの逃げ去ったとおぼしき方面へ調査を……」 「そ、それで、どうだったんですか!?」 ……コルベール先生って、興奮すると汗でさらに眩しくなるんだなぁ…… 「付近の農民数人に訊きこんだところ、村外れの森にある廃屋に入っていった黒ローブの男を見た、とのことです。恐らくその者フーケであり、その廃屋はフーケが隠れ家として使っている所ではないかと」 「なんと!その廃屋はどこに!?」 「ここからですと、徒歩で半日、馬なら4時間ほどといった場所です」 ……すごいなぁ、そんなことまで分かっちゃうんだ…… でも、フーケ、バレバレだよね?……ジタンだったら「プロじゃないなぁ」とか言うのかなぁ? 「な、ならば早急に王室に報告しましょう!王室衛士隊に今回の事を依頼し、兵隊を差し向けてもらわなければ!」 「喝っっ!!浮足立っておるぞ、ミスタ・ゴールドヘルム!」 「……あの、私、コルベールですが……」 ……オスマン先生って、空気を引き締めたいのかなぁ?それとも、思いっきりダラけさせたいのかなぁ…?全然分かんないや…… 「ともかく、じゃ!そんなことをしている間にフーケはもっと遠くに逃げよるわ!第一、自分達を襲う火の粉を自分達で満足に払えんで貴族も何もあるものか!」 「――…お言葉は立派ですが、人のお尻を触りながら言うのはやめていただけます?」 「あたたたたたた、眉間はやめて、眉間もやめて!?目に入りそうですっごく怖い!?」 ……オスマン先生って、ホント何がしたいのかなぁ……? 「お、オホン!!!しかるに!魔法学院で起こった問題は我々だけで解決せねばならん!!そこでじゃ、フーケの捜索隊を編成する事にする!我こそはと思うものは杖を掲げよ!」 ……ちょっとダラけた空気が引き締まる…… でも、さっきとは違う、どこか冷めきった引き締まり方だったんだ…… 「これ、誰も杖を掲げんのか?名を上げる良い機会じゃぞ?」 ……さっきまで 『みにくいあらそい』してた先生達も顔を下げっぱなしだ……うーん、確かに、あのゴーレムは怖いもんね…… 「み、ミス・ヴァリエール!?」 「え?る、ルイズおねえちゃんっ!?」 ……いつの間にか、ルイズおねえちゃんの杖が、天井の高いところまでしっかりと指し示すように上げられてたんだ…… 「ミス・ヴァリエール、あなたは生徒ではありませんか!昨日の事態を目撃したなら、どれほど危険なことかお分かりでは!?」 「誰も、杖を上げないではないですか!!!」 ……ルイズおねえちゃんの拳がプルプル震える…… ルイズおねえちゃん、悔しいのかなぁ、昨日のことが……? 「み、ミス・ツェルプストーまで!?」 キュルケおねえちゃんと……その影に隠れてタバサおねえちゃんも杖をしっかり上げていた…… 「ルイズにだけ、いい格好はさせたくありませんもの!」 「心配」 ……ルイズおねえちゃん、良かったね! こんなに強い友達……ううん、違うね!「仲間」ができたんだ! 「ほほほ、気概があるのは生徒ばかり、か!まぁ情けなくもあり頼もしくもあり!!よかろう!諸君らにフーケのことは一任しよう!!」 「そんなオールド・オスマン!生徒達だけに任せるなどと!?」 「なんじゃい、ミスタ・ガトー!ならばお主が行くか?」 「わ、私はギトーで……いえ、何でもありません……」 「それに、じゃ!ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士と聞いておる!」 ……水をかけられたように部屋の中の空気がざわめく……シュバリエって何だろ? 「本当なの?タバサ?」 「……ルイズおねえちゃん、シュバリエって……?」 「は!? あ、そっか、あんた知らなかったのよね……シュバリエっていうのは、純粋に個人がなした偉業に対して王室から与えられる称号よ!」 「つまり……タバサおねえちゃんってすごいってこと?」 「そりゃもう!……タバサって普段無口だけど、あの若さでシュバリエなんだ……」 「も~!タバサ、つれないじゃな~い!親友の私に教えないなんて~!」 「聞かれなかった」 ……騎士って聞いて、『プルート隊』のことを思い出したんだけど……このざわめき方だと、きっともっとすごいんだろうなぁ…… 「それに、ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を多く輩出した家系の出で彼女自身が出す炎魔法も強力と聞いておる!!」 ……キュルケおねえちゃんが胸をはってオスマン先生の紹介に答える ……軍人さんの家か……きっと、鎧とかがいっぱいあるんだろうなぁ…… 「そして、ミス・ヴァリエールじゃが……」 ルイズおねえちゃんが今か今かと構えている…… 「えー、そのー、なんじゃ、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女であり、えー、将来有望なメイジと聞いておる!!」 ……ルイズおねえちゃんが、ホントに「ガクッ」て音がしそうなぐらい肩を落としたんだ…… ……また拳がプルプルふるえてる……うーん、なんとかしてあげたいなぁ…… 「そ、それに、その使い魔であるビビ君は、異国のメイジとして、祖国を救った英雄の一人と聞いておる!!」 「え?ぼ、ボク!?」 ……突然の紹介に驚いて、辺りを見回すと、先生達がこっちを見てる……うぅ、恥ずかしいなぁ…… 「そうですぞ!それにビビ君はガンd」 「ゲホゴホウォッフォン!!あぁ、風邪でもひいたかの!うん!」 ……?オスマン先生、さっきまであんなに元気だったのになぁ……? 「……さて!ともかく、諸君らに全てを任せる!ミス・ロングビル、すまんが、道中の案内と監督を頼めるかの?」 「えぇ、もとよりそのつもりでしたわ」 「うむ、では、魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する!!」 「「「杖にかけて!!!」」」 「え?え?えと……あの……で、デルフにかけて!?」 ……何となく、合わせないとダメなのかなって思っちゃったんだ…… 「はぁ~いい天気ね~!このままピクニックでも行っちゃいたいぐらいだわ~!」 「キュルケ!気をぬきすぎよ!!私たちは魔法学院の期待を背負ってるんだからね!!そ・れ・と!!ビビに勝手に抱きつかないでっ!!」 「え~、いいじゃな~い!まだ道のりは長そうなんだし~!」 ……ボクたちは、天気のいい中、フーケがいるっていう森を目指して馬車の中にいたんだ…… タバサおねえちゃんは読書、ルイズおねえちゃんとキュルケおねえちゃんはいつもの喧嘩……それで…… 「ミス・ロングビル!何もあなたが御者をしなくてもよろしいですのに~」 「いえ、私は貴族の名を失ったものですから……」 ……ロングビルおねえさんが御者さんをやっていたんだ ……「貴族の名を失う」って言うときのロングビルおねえさん……なんか、悲しそう……? 「あら、その辺りのことを詳しく聞きたいですわ!」 「ちょ、キュルケ!やめなさいよ!人にはね、言いたくないこととかあるものなの!!貴族なんだから、慎みをもちなさい!!」 「え~、だって退屈じゃな~い!じゃビビちゃんといちゃつく~♪」 「あぁっ!こらーっ!!いい加減にしなさーいっ!!」 「娘っ子たち、元気だなぁ~……」 「う、うん……元気だね……」 デルフは最初から鞘から出しておいたから今もしゃべってる(戦闘になったときに鞘から出せないって危険だもんね……) ……そんな春のあったかい日差しの中、あのおっきなゴーレムと戦わなくちゃいけないかもしれないって中を、 ボクたちはピクニック気分で馬車に揺れていったんだ…… 「――こんなこっていいのかねぇ、相棒?」 「な、なんとかなると思うよ?……多分……」 前ページ次ページゼロの黒魔道士